2009/06/17

太宰治 「斜陽」

また「斜陽」を読んだ。

今日はテレビでも番組をやっていたし夕刊にも太宰ブームだとかいう記事があった。

「斜陽」には太宰自身をモデルにしたような男が二人出てくる。
上原と直治である。
上原は最低な男としてクソミソに描かれるが、
クソミソに言っているのは実際に愛人であり子供まで生んだ、「斜陽」の主人公であり語り手でもあるかずこと、
その弟という設定だがモロにそのまんまの太宰である。

今回読んでみて、上原という人物は実際の太宰よりも酷く描かれていて、
太宰だけでなく作家や芸術家全般を批判したのかもしれない。
上原は、世間が見ている太宰の姿、直治はほんとうの太宰の姿ではないだろうか。
かずこが身ごもった子供を、上原の奥さんつまり、太宰の奥さんに抱かせたいとかいう、奇妙な言葉で締めくくられているのも、そうだとするとちょっとわかるような気がする。

あんな人生を送った男なのに、最後に(2回目?)結婚した妻とは、子供ももうけて、一応死ぬまで夫婦であった。作品中にも、その他のエピソードにも、妻を信頼しているという言葉が何度か出てくる。さんざん愛人を作っておいて、と私も思っていたが、彼が妻を「愛していた」というのは本当だったのだろう。
「斜陽」では上原に対する復讐のような意味でその妻に子を抱かせるという風になっていたが、あれだけ実体験に近くて、しかも時間もついこないだというレベルであるから、妻だって誰のことだかすぐにわかるだろう。

そんな愛情表現はありえないと、普通の人なら思うだろうが、
私は今思った。
あの「子を奥さんに抱かせる」というのは、太宰の妻に対する愛情表現ではないかと。
太宰は、かずことして語り手となっている女にはあまり愛情がなかったと思う。
むしろ、流行作家だからと軽薄な動機で近づいてきたバカな女だと考えていたと思う。
少なくとも「斜陽」を読む限り、主人公の女に共感しないのはもちろん、同情の余地すらない。

「斜陽」のいいところは、6年ぶりに再会して変わり果てた上原と、惨めなカタチで結ばれ、
そのあと突然直治が自殺した、というところ。
引用される遺書と、かずこが浴びせかける上原への軽蔑の言葉。
わたしが思うにあれは遠まわしな女性批判である。
直治がつまり太宰が本当にすきだったのはスガちゃんなのである。
なんで「スガちゃん」なんだろう。
もしかしたら二人だけにはわかる暗号なのかもしれない。
そうだったらいいな。

太宰の文章には、何か違和感がある。
読みやすいのであるが、なんか足りないような、神経が行き届いてないというか、
雑というか。嘘臭いというか。
血が通っていないと言ってもいいかな。